ロンドンでミュージカル『Dear Evan Hansen』を観てきた!(2022年9月24日)
こんにちは、Beeです!
私生活がバタついており更新が遅くなりました。もう2週間も前のことになるのですが、
ロンドンウエストエンドにて『Dear Evan Hansen』を観劇してきました!
2016年にブロードウェイで初演。昨年2021年には映画化もされた本作。
映画版で主演を務めたのはブロードウェイ初演キャストのベン・プラット。彼の歌と演技に魅了された方は多いはず!
日本ではまだ上演されていないかつ、ロンドンでも今年の10月に千秋楽が決まっているということで急いで観に行きました。
もう、期待以上でした…!!!
正直に。映画の何倍も感動しました。
言葉が出ないくらいの素晴らしさ。けど頑張って言葉にしていきたいと思います…!
シンプルに感じた生の舞台ならではの良さと、私が個人的に抱いていた違和感を解消できた先に出会えた感動を伝えたいです…。
〈目次〉
【あらすじ】
映画をご覧になった方も多いとは思いますが、日本未上演ですので念のため映画版の公式あらすじを拝借します。
エヴァン・ハンセンは学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいる。ある日彼は、自分宛てに書いた“Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)”から始まる手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう。それは誰にも見られたくないエヴァンの「心の声」が書かれた手紙。後日、校長から呼び出されたエヴァンは、コナーが自ら命を絶った事を知らされる。悲しみに暮れるコナーの両親は、彼が持っていた〈手紙〉を見つけ、息子とエヴァンが親友だったと思い込む。彼らをこれ以上苦しめたくないエヴァンは、思わず話を合わせてしまう。そして促されるままに語った“ありもしないコナーとの思い出”は両親に留まらず周囲の心を打ち勇気を与え、SNSを通じて世界中に広がっていく。思いがけず人気者になったエヴァンは戸惑いながらも充実した学校生活を送るが、〈思いやりでついた嘘〉は彼の人生を大きく動かし、やがて事態は思いもよらぬ方向に進む――。
社交不安障害や、若者のSNSへの向き合い方、現代ならではの孤独にフォーカスした、非常に時事的な物語です。
トニー賞6部門受賞というだけあって、骨のあるテーマと爽やかな音楽が魅力。
舞台版も映画版も大筋は同じです。(若干ナンバーに違いあり)
【劇場】
『Dear Evan Hansen』が上演されているのはNoël Coward Theatre。
地下鉄のLeicester Square駅から徒歩2分。中華街からもすぐそばです!
外観はこんな感じ。
中に入るとすぐに売店があり、「エヴァンといえば!」の青いポロシャツなんかが売っていて、大賑わいでした。
こちらのNoël Coward Theatre、内装がすごくかわいくて、お洒落なカフェみたい。
本日の出演者が確認できる、いわゆる「キャスボ」も!
本日のお席は2階(Royal Circle)の2列目。もともと£170(¥27000くらい)するチケットだったのですが、当日朝にマッキントッシュシアターのHPを見たらなんと半額に値下げされていました!
↓今回使ったのはこちらのサイト。有名なプロデューサー、キャメロンマッキントッシュが所有する劇場上演作品のチケットはこちらでも入手可能なのです。
TKTSより安い…
結局いろいろなサイトを見比べた方がいいみたいです…
(やはりウエストエンドチケットの仕組み、よくわかりません。わかったら別記事にまとめますね…)
いやーラッキーでした。すごくいい席。
2階がだいぶ前にせり出しているので、写真よりもずっと近かったです。
こちらの劇場、2階席かなりおすすめです!
私、この舞台を見ただけで鳥肌が立ちました…
写真だとわかりづらいのですが、舞台上のスクリーンや紗幕に映し出されているのはSNSのスレッド。これがピロン、ポロンという音と共に絶え間なく更新され続けているのです…!
これらのスクリーンは、舞台中は時々袖に捌けたり、実際に舞台上の映像が映し出されたり。
観たことのない方には若干のネタバレですが、幕間にはずっとエヴァンのスピーチ映像が流れていました!
そしてもう一つ珍しかったのが、オーケストラが舞台下手上方にいること!
いやーもう面白い。
席に座っただけで、来てよかった~なんて思っていた私ですが、この後本編で想像以上に派手にノックアウトされることになるのでした…。
【感想(ネタバレ含む)】
※楽曲名にはリンクを付けているので、どんな曲だっけ?という方はぜひクリックしてください!
端的に、本当に観に行ってよかった…。素晴らしかった…。
映画でもポロポロ泣いていた私ですが、生の舞台は伝わってくるものが比じゃなかったです…。
映画を見終わった直後、最初の感想が「ベンプラットやば!」だったのですが、正直なところそれ以上の感想はそこまでなかった。
もちろんテーマは理解できるし、色々と考えさせられるところはあったのですが、良くも悪くもベンプラットの素晴らしさがそれを凌駕してしまっていたような。
ベンプラットありきで急いで映画化したんだろうな、と。
「映画どうだったー?」と聞かれたら、「あーよかったよ!」とか「ベンプラの歌聞くだけでも観に行く価値あるよ」みたいな答え方をしていたのですが、
これは全く違いました。
「ディアエヴァンハンセン」を、ぜひ観てほしい。
舞台はいい意味で、作品としての重厚さが際立っていました。
アンサンブルは無し。たった8人のキャストなのですが、その迫力、一人一人の演技、歌、思いが強い。
「You Will Be Found」なんて、舞台ではたった7人しか歌わないんですよ!そんな風には思えない迫力でした!
色んな角度から見て、誰一人負けていない。そんな印象。
そしてシンプルに曲がいい~(泣)
これは後でも書きますが、これまた、曲が良ければ良いほどに苦しくなる作品。
作りが完璧。
こりゃ話題になるに決まってるよ。
もちろん全キャストよかったのですが、一番印象に残ったのはエヴァンの母、ハイジ役のRebecca Mckinnisさん。
とくに2幕からは持って行ってましたねー!すごかった!
エヴァンを演じるのはオルタナティブ(アンダースタディではない)のMarcus Harmanさんでした。
時々高音が危ういところがあったのですが、(この作品の曲、いざ口ずさんでみるとめちゃめちゃ難しい!高音の部分に悉くイやエ母音の歌詞があてられていて声出づらい)
もちろん基本的にめちゃ歌うま。
不安症で喋り出すと止まらなくなってしまうところや、恐怖で頻繁に涙目になってしまうような演技が素晴らしかった。観ていて苦しかった。
他のキャストもみんな歌うまなのはもちろん、爪痕を残していました。
この作品、登場する子供たちはみんなある意味で「問題あり」なんですよね…。
エヴァンだけがみんなと違う、と思いきや、コナーも実は問題を抱えていた、
という設定ですが、
よく知りもしないクラスメートだったのに、コナーがら自殺したことを知った途端にプロジェクトを立ち上げる使命に異常なほどに駆られてしまうアラナ。
彼女の最後の暴走もリテラシーに欠けるなかなかのものですし、
エヴァンのことを「友達じゃない」と真顔であしらいつつ、何のためらいもなくエヴァンとコナーの偽アカウントや偽メールの作成を楽しむジャレドも。(映画よりもだいぶクレイジーな感じでした)
みんな「ネットを駆使する」ことに長けているものの、リアルの人間関係においては少なからず問題を抱えています。
たまたまエヴァンには医師の診断が出ているだけで。
(映画ではアラナも薬を服用している設定がありましたが、舞台版は言及無しでした。彼女の歌う「The Anonymous Ones」もありません。)
コナーの母だって、次から次へと流行りものに手を付けていくところが少し皮肉っぽく描かれていますね。
一方でそんな中、コナーの妹ゾーイだけは、「Only Us」を歌い、「今ここにある自分たちを見つめよう」という姿勢が他の登場人物と少し違っており、際立っていました。
ゾーイ役のLucy Andersonさんもめちゃくちゃよかったです。透き通っていて。
(彼女がジャズバンドに所属している、という設定もミソかも。音楽って、今ここに、楽器と自分が存在しないと生み出せない「リアル」なものですもんね。
うわ、この舞台だってそうだ。紛れもない「リアル」の中にネットという虚無を映し出している…)
そんな風に、舞台では全員の問題がしっかり浮かび上がって見えたなあ…。
映画版と違って舞台版でグッと来たところです。演出と、役者の良さかな。
(とはいえ映画版も見直したら印象変わるかもなので、もう一度観ます)
そしてこの作品の魅力として欠かせないのがやはり音楽。(「ライブ」!!!)
何度も褒めますが、シンプルに曲がいい~…!!
エヴァンの嘘に当たる部分の曲たち、「For Forever」や「Sincerely, Me」そして「You Will Be Found」。
これらの心地よい音楽と爽やかな歌声に心を委ねているうちに、「うんうん、いい思い出よね~」と、まるで本当にエヴァンとコナーが親友だったかのような、コナーが本当に心から家族のことを思っていたかのような錯覚に陥るんですね。
ところが、ふとした瞬間に「これは全て嘘なんだ」と思い出して我に返ったときの恐ろしさ。罪悪感。虚無感。
コナーは実際どういう子だったの?もしも本当に一欠片の思いやりもない子だったら?
死人に口なし、とはこのこと。
木から落ちて一人ぼっちだったエヴァンの孤独は何だったの?
エヴァンが上手く、爽やかに歌い上げれば歌い上げるほど、時々鳥肌が立つほど怖くなります。
これは、嘘をつきすぎてもう後戻りできなくなってしまったエヴァンの気持ちと同じはず。
うーん。なんて手の込んだ作り。この現象はまさに楽曲・脚本・演出・俳優の演技の奇跡のミックスが生み出すものだと思いました。
すごい作品。
(ネット上の)偽りの自分、嘘で固めることで偽物の自信を身に着けていったエヴァン。(コナーとの偽のやり取りも、秘密のアカウントを使ったEメールというのがキー)
それと同時に気づかぬうちに崩れていったのは、いつもそこにいてエヴァンを愛してくれていた母との関係性。
母親はエヴァンのこれまでの全て、いわば本当の彼を知っているわけで。
最終的に嘘が明るみに出た後、残ったのはいつもそこにいてくれた母親の存在。
そして、虚偽の自分を取り払った後に残る本当に自分。
「いつもスクリーンばかり見てる」と言われていたエヴァンの最後の言葉(歌詞)は
「All I see is sky for forever」(見えるのは空だけ。ただ永遠に)
またその旋律の美しいこと…!
(そして歌うのの難しいこと…!)
このラストに限っては、爽やかなメロディも決して嘘なんかじゃない。
本物のエヴァンの声です。
(途中もやたら泣いていた私ですが、ラスト自分でも引くくらい泣いた)
実は映画を観た後、終わり方があまり…(まあこう終わるしかないか…)という印象がありました。
その原因はおそらく個人的に、「You Will Be Found」「誰もが一人じゃない」というメッセージに重きを置いた宣伝に対して、「え、でもそれ嘘なんだよね?」と思ってしまっていたからだと思います。
(ご参考までに。なんか違う気がしていた宣伝映像はこちら。)
でも今回は初めて舞台版を観て、その「道徳的な」メッセージの裏に存在する罪悪感と、ラストでの回収に自分の中で納得がいきました。
全くバッドエンドなんかじゃない。アンハッピーエンドなんかでもないです。
だってエヴァンが、「残ったのは本物の、ただの僕(just me)」だと言うんですからね。
SNSで自分を偽ることなんかせず、ありのままの自分を見つめなおし、
スクリーンばかり見ていないで、美しい空を見上げよう。
なんて美しいメッセージ。
今の時代に、上演されるべくして上演されている、見ごたえのある素晴らしく美しい作品でした。大好きになった。
と、匿名のアカウントを使ってパソコンに打ち込んでいる私。
完!