Beeの観劇記録✿

ミュージカル大好きなBeeの観劇記録

ロンドンでミュージカル『Hades Town』観劇(2024年5月16日)感想

 

こんにちは、Beeです!

観劇は定期的にしていたのですが、サボリ癖がつくとダメですね…。前回のブログ更新からは一年近く経ってしまいました。

せっかく刺激的なものを観たので、ここからまた頑張りますね。

 

今回観て来たのは…

 

Hades Town

 

2019年にブロードウェイにて初演、今年2024年2月からついにウェストエンドでも上演が開始した作品。

トニー賞では13部門でノミネート、うちベストミュージカル賞を含む8部門を受賞したことで話題でした。

個人的には、ミスサイゴン25thキム役で私の中でのミスサイゴンの概念を覆したEva Noblezadaちゃんや、ノートルダムの鐘サンティエゴ公演で爆イケフロローを演じていたPatrick Pageさんが初演だったことでも非常に気になっていました。

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こちらはブロードウェイ版のトレイラー。エバちゃんの声は刺さる。

全編歌で構成されたオペラスタイルのミュージカルです。

今回ロンドンでやると聞いて絶対行くと決めてました。

地下鉄の駅でも印象的な赤い花のポスターをよく見かけます。

 

日本語だと「ハデス」と呼びますが、英語の発音だと「ヘイディーズ」って感じなのでややこしい。この記事の中では「ハデス」「ハデスタウン」と表記することにしますね。

ちなみにエウリュディケは「ユーリディシー」って感じなので、聞いたことある日本語の音と違い過ぎて最初わけわかんなかった…。ジーザスとイエス的な。大抵日本語の方がオリジナルに近いんですけどね…全くもう英語ってやつは。

 

〈目次〉

 

 

 

 

【元ネタ】

楽しみにしていた、とは言っても、私もギリシャ神話のハデスが出てくるらしい、ということくらいしか実は知りませんでした。

ロンドン上演にあたり予習を始めました。元となっているのはギリシャ神話「オルフェウスの冥界下り」。言われれば、あーあれねって感じ。

簡単にまとめると、

吟遊詩人のオルフェウスが、死んでしまった妻エウリュディケをこの世に連れ戻すために冥界に行き、冥界の王ハデスと交渉する。妻を連れて帰る冥界からの帰り道、後ろを歩く彼女を決して振り返ってはいけないと言われたのに、ゴール目前で振り返ってしまう

というあれです。世界史でちらっと習った記憶…。

なんでこれをミュージカルに?!という感じなのですが、それがまた私の脳みその範疇を超えていたという感想は、最後まで読んでいただければお分かりいただけるかと思います。

冥界から帰るオルフェウスとエウリュディケ

 

【あらすじ(ネタバレなし)】

さて、ミュージカルでは、ギリシャ神話の世界ではない架空の時代と場所が舞台になっています。世紀末感の漂う不穏な世界。季節は、暑い夏か、または凍てつく冬の二つしか存在しません。人々はこの気候に苦しみ、貧困にあえいでいます。

主人公はもちろんオルフェウス。(より詳しく知りたい方はウィキペディア参照

 

ただし、彼は吟遊詩人ではなく、Singer Song Writer(まあ一緒か笑)。ギターやピアノを弾いて、世界に春を呼び戻すための音楽を作曲しようとしています。

 

以下あらすじ。

気弱で貧乏なシンガーソングライターのオルフェウスは、ある日出会った女性エウリュディケに突然結婚を申し込む。エウリュディケはもちろん彼を疑いいぶかしむが、オルフェウスが作りかけの音楽を奏でると、紙で作られた花がなんと赤い生花に。語り部である神のヘルメスの「彼は他の男とは違う」という説得も功を奏し、エウリュディケはオルフェウスとの結婚を決める。

そこへ豊穣の女神ペルセポネがやって来たことで世界は夏に。しかし、ペルセポネの夫であるハデスが彼女を迎えにやって来る。ここで、ハデスが支配する町「ハデスタウン」は工業都市で人々が労働を課されていることが説明される。ハデスはペルセポネを連れてハデスタウンに帰ってしまい、世界は再び冬に戻る。寒さと飢えに苦しむエウリュディケは食べ物を探し、オルフェウスに作曲を急いだ。

その後、ハデスに誘われたエウリュディケはハデスタウンへ向かう列車に乗り、ハデスとの契約にサインをしてしまう。そこに行けば、労働の代わりに安全が得られるとそそのかされたのだ。

しかし、ハデスタウンは、労働者たちがただ不当な労働を課せられる恐ろしい街だった。しかも、彼らは段々と過去の記憶や自分自身のことを忘れていってしまう。オルフェウスは、彼女を助け出すために歩いてハデスタウンへ向かい、作りかけの音楽と共にハデスとの交渉を試みるのだった。

 

登場人物は、オルフェウスとエウリュディケの夫婦に加え、ハデスとペルセポネというもう一組の夫婦(実際は神)。それに、語り部の役割を果たすヘルメス(こちらも神)と、それを取り囲むように常にコーラスをする三人の女神、フェイトたち。アンサンブルは町の人々や、我を失った労働者たちを演じます。

興味深かったのは、ブロードウェイ初演時は男性が演じていたヘルメスが、ウェストエンドでは女性だったことですね。しかもアンダースタディの方は男性。ミュージカルでこういう性別を問わない役がどんどん増えてきてますね!

 
 
 
 
 
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下は今回のウェストエンド版ヘルメス、Melanieさん。

 

【感想(ネタバレあり)】

ストーリーに関しては、原作が神話なので、ネタバレは主に演出について。

 

始まった最初の方は、なんかかっこいいぞ!と言う感じ。

一曲目はかなりノリのいいグルーヴ重めのオールドスクールな音楽「Road to Hell」で始まり、ヘルメスのソウルフルな歌声がかなりかっこいい。雰囲気はハミルトンっぽい。

Hadestown (Original Broadway Cast Recording) - Album by Original Broadway Cast of Hadestown | Spotify

 

でも、最初の方は「なんとなくかっこいいな~」と思っていたのに段々と不穏で恐ろしくなってくる。この曲だけでなく作品全体を通して、トロンボーンの音とアンサンブルの「umm hmm」というハミングが印象的なのですが、特に、ハデスタウンでペルセポネが「どうしてここはこんなに暑いの」と言う台詞を聞いてから、全部がうだるような暑さを表しているように聞こえてきくるんですね。暑くて眠れない夜の蚊やハエの羽音のような!

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こちらはウェストエンドのトレイラー。伝わります?このトロンボーンの音のカッコよさ。でも、それが鬱陶しくなる瞬間。

 

つまり何が言いたいかというと、

音楽がすごい…!

 

もちろん、狭い舞台や暗めの照明から、最初から不穏な空気は漂っているのですが。

でも、こうやって観ている方も段々と、「あれ、何か悪い方向に向かっているぞ」という感覚がしてくる。楽器の音も、綺麗な歌声もどこか怖くて鬱陶しい。

ペルセポネが連れてくる夏は明るいし、まるで悪徳企業の社長のようなシルバーのスーツ姿のハデスも笑いを誘うのですが、なんだかずっと不安。

 
 
 
 
 
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悪そう過ぎるイケオジハデス。

 

その分、オルフェウスの歌う歌で春が来かけた時、ふあああっと明るくなっていく照明とオルフェウスの歌声のクレッシェンド、そして止めに静かにポッと咲いた小さい赤い花になぜかハッとして涙が出そうだった。

 

つまり何が言いたいかというと、

音楽がすごい…!(二回目)

 

その後も、やっぱりトロンボーンとハミングが鬱陶しくて不安感をあおる。

また、オルフェウスの味方かと思ったヘルメスが、同じく見守るようだったフェイトたちのことを、「彼女たちは味方じゃないし手のひらを返すからね」(記憶曖昧)的なことを言った時に、

ウッ。神は人間の味方ではない…。

 

とこれまた不安と恐怖。

で、わかってたのに、みーんなわかって観に来てるのに、改めて途中で思い出すんですね。

 

そうじゃん…これ、結末悲劇じゃん…。

 

意識しちゃうと、自我を失った労働者たちの中に放り込まれて、オルフェウスに助けを求めるエウリュディケを見るのが苦しすぎる…!

 

そういう意味では、全体を通して思った以上に恐怖だったかも。

しばらくトラウマになりそう。(笑)

そりゃそうだよね、地獄をモチーフにした工業都市だもんね…怖いよ。契約して自我を失うにしても、千と千尋の神隠しなんてもんじゃないよ…。

 

エウリュディケを助けに行くが、労働者たちにリンチされるオルフェウス。彼を囲んで、「結局運命なんて何にも変わらないのよ~」と歌うフェイトたちがまた恐ろしい。だってフェイトじゃんね、名前!フェイトって!運命って!

ああ、神は人間を救ってなどはくれない…。

そしてまたこのフェイトお三方の歌がとんでもなく上手いんだ。

三人とも激うま美声で、きれーいなアカペラ三重唱で「運命は変わらない」と歌われた日にゃあ、背筋が凍ります。

 
 
 
 
 
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それでも頑張るオルフェウスは、ペルセポネとハデスに自分の歌を聞かせる。ここで春を呼ぶ歌が完成します。

これを聞いたハデス夫妻は、冷え切っていた関係も雪解けするようにダンスをします。

このダンスもなかなか滑稽なのですが、なぜか、待ちわびた春が来た感覚にまた泣きそうに。

 
 
 
 
 
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不思議なダンス

 

つまり何が言いたいかというと、

音楽がすごい…!(三回目)

 

この後に待つ結末も忘れて、自我を取り戻した労働者たちと一緒にほっこり。

 

も、束の間、やはり冥界の王ハデスは一筋縄ではいかず、オルフェウスたちに神話同様の条件が言い渡されます。

 

そして、このハデスタウンから帰るシーン…。

 

三重盆になった真っ暗な舞台を、オルフェウスがただ歩くだけなんですよ。

その間、彼の想像を表現するように、背後を歩くエウリュディケは照明の陰に消えたり、現れたり。

そして必死に歩くオルフェウスの周りで、またもやフェイトたちがあざ笑うように歌います。怖い…。

 
 
 
 
 
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結末はわかっているのに…!思わず呼吸を忘れてオルフェウスを応援してしまった…。

もう少し!もう少し…!頑張って…!ちゃんと彼女はついてきているから!

 

で、ラストですよ。

上手に明るく刺したオレンジの温かい光に、さっと振り返るオルフェウス

エウリュディケと目が合って、絶望したように一言。

 

「…It's you」

 

エウリュディケも

 

「It's me…」

 

と返すと、三十盆の真ん中に立った彼女がゆっくり沈んで行ってしまう…。

 

だからね、わかってたんですよ。結末は。こうなることはよくよくわかっていたの。

なのに、この劇場全体の静けさ。みんなが息を止めているのがわかる感じ。

 

よく知られた神話をミュージカルにするなんて、誰が考えたんだ?すごいわ~。ヘラクレスじゃあるまいし。

なんて疑問が全てここで回収された気がしました。

これ、「神話をミュージカル化した」というよりは、「音楽と舞台芸術の天才たちが神話を軸に究極のアートを造った」んだ…という感じ。 

 

すごかったんですよ、帰り道の説得力。

オルフェウスと一緒に頭がおかしくなりそうだった。

ほんっとつまり何が言いたいかというと、

音楽がすごい…!(四回目)

 

 

結末としては、やはりエウリュディケはハデスタウンに戻ってしまいます。

ですが、どうやら労働者ともども自我は失っていないらしい。

冬のコートを着たエウリュディケが「オルフェウスに届くかもしれない!」蝋燭に火を灯し、皆でオルフェウスの春を呼ぶ歌を歌います。

そして明るくなる舞台上手にオルフェウスが現れて、舞台は終了。

 

このラストをどう解釈すべきかは正直よくわからない。

エウリュディケがハデスタウンから出ることはできないけれど、世界に春が戻ったことで一筋の希望の光が残された、というところでしょうか。

 

また会えるといいな…オルフェウスとエウリュディケ。

 

後から調べたところ、ペルセポネは春の女神とされているそうですね。

だから、いずれにせよ、オルフェウスの歌と、ハデスと仲直りしたペルセポネの登場、その二つが両方春の訪れのきっかけになっていることは間違いないので、世界の暗黒は終わった、と前向きにとらえるしかないんでしょうね…。

ペルセポネの詳しい背景はウィキペディアを参照。ヘルメスと仲良しそうに歌い踊っていたのも、これを読めば納得。

 

ああ…。変な舞台。変だし怖いし。

でも、すごい作品なのは間違いなかったです。

うん、すごかった。すごくすごかった。

何より、音楽がすごい。(最後)

 

簡単に人におすすめはできないけど、間違いなく観てよかったです。

 

【キャストについて】

 

今回のキャスト、メインキャストの中ではエウリュディケのMiliamさんとハデスのChristopherさんがアンダースタディの方でした。

だから、というわけじゃないけど、オルフェウス、エウリュディケのお二人は若干、得意なキーと不得意なキーがあったかな、という印象。ブロードウェイのCDを聞いていたので少し気になってしまった、くらい。パンフレット見てみると、お二人ともまだクレジットが少なく、かなり若そう!

 
 
 
 
 
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ハデスのChristopherさんもお写真と経歴から見るに若そうなのですが、怖くてよかったです。ちなみに、ブロードウェー版のペイジさんの重低音とはキーが変更されていました。

もしかするとメインの方だと重低音なのかも?でも、これ以上怖くなられたら私はついていけなかったのでよかったです(笑)。悪役!冥界の王!ってよりかは、インチキ敏腕社長感あってよかった。

ヘルメスのMelanieさん、グルーヴ感かっこよかった!

けど、CD聞いただけでわかりませんが、もしかしたらヘルメスは男性の方がいいかもな…。女性だとちょっと母性が見えてしまって、最初の方はオルフェウスを見守ってくれているっぽかったのに結局助けてくれないんじゃん!という印象になってしまった。それはそれで神々の不条理さが出るのかもしれないけど、語り部だし、男性の方が中立っぽさは出るのかもしれない。

ペルセポネのGloriaさん。もう夏や春が来ると歌い踊り狂う感じが、ある意味で神っぽくてすごくよかった。夏になると緑のドレスを着て、頭やバッグにお花をつけて来る感じ、絶妙に可愛い。

 
 
 
 
 
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そしてフェイトのお三方、素晴らしかったですね~。いや~ほんと、フェイトが歌爆うまなことで作品のエグみが増す!全員すごかったけど特にLucindaさんが抜けて素晴らしかった。Swingかつ、Fateもアンダースタディなんですって。またどこかで拝見したい。

 
 
 
 
 
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Lucindaさん!注目

 

【劇場について&観劇アドバイス

今回の劇場はPiccadily Circus、チャイナタウンそばにあるLyric Theatre。

前回Aspects of Loveを観たのと同じ劇場!

 

concertoinf.hatenablog.com

今回はバルコニー席の最後列を£23でゲットしていたのですが、この劇場でバルコニー席はおすすめしません…。大失敗。

もちろん注意書きはあったし見切れは覚悟していたのですが、古い劇場なので見やすい設計にはなってない。

天井張り出し過ぎでしょ、何考えてんの…。

しかも、ここにミッチミチに体の大きなおじさま達が詰まっていくので、正直何にも見えません。

ただ、不幸中の幸い、最後列だったので後ろを気にすることなく畳んだ椅子の上に座ることでよく見えました!(笑)お尻痛かった。

横のお姉さんは係の人に頼んでクッションを借りていましたが、それが最後の一つだったらしく、みんなあきらめてました。

これは私自身への覚書&今後観劇予定の方へのアドバイス

  • Lyric Theatreのバルコニー席は避けた方がいい
  • どうしてもバルコニーにするなら最後列じゃないと悲劇
  • クッションの貸し出しは数に限りがあるので早めに

 

劇場自体はこじんまりとして素敵です。前回のアスペクツの時も一階席は快適だったので、観たい演目なら少し奮発した方がいいかもですね!

ほんっとに。ウェストエンドの劇場はどこも素敵だけどそこが難点。古い、狭い、バリアフリーじゃない、設計が悪い、人が大きい。

 

バーでは、作品のキャラクターにちなんだカクテルが売られていたのも面白かったです。

カクテルのメニュー

グッズもたくさん

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【おわりに】

Hades Town、観てよかったですよ。

音楽ってすごいんだ。って。(語彙力)

正直間髪入れずにもう一度観に行くにはメンタルが持たないですが、もっと曲を聴きこんでから再観劇したらもっと見えるものがありそう。聞き取れていない部分もたくさんあると思うので。

長くなりましたが、今回はこれにて!